2011/04/08

福島原発の現状って本当はどうなの?

3月17日(木)に参議院議員会館で開催された緊急院内集会「福島原発の現状をどう見るか」に参加してきました。11日(金)に発生した「東北沖地震(東日本大震災)」の影響を受けて起きた、福島原発の現状と今後想定される問題点について(基本的には議員さんたちを対象にした)専門家の話しを直接聞くことができる貴重な機会でした。集会は直前にネットで告知されただけでしたが、会議室が満杯で立ち見が多数でるほどの盛況ぶりでした。主催した原子力資料情報室のHPで、報告会のUSTREAMを録画で見ることができます。 http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=1025

【設計技術者・後藤政志さん】 話をされたのは後藤政志さん。東芝の元原子炉格納容器設計者で、工学博士でもあります。後藤さんは、原発の事故発生後から、主に今回の院内集会を主催した原子力資料情報室のコメンテーターとして技術者の立場から小さな集会などで発言を続けてこられました。実際に、原発の「格納容器」や今回の爆発で吹き飛んでいる建屋などの設計に当たられた知識とご経験から、政府やマスコミが伝えない今回の原発事故のリスクについても、技術者の良心を賭けて発言されています。

これまでに、USTREAMなどで後藤さんのコメントを聞いて、その発言に真実を感じるというか、ネガティブな情報も含めて最悪の事態が起きる可能性をちゃんと伝えてくれる姿勢に惹かれていました。それは、立場もあるのでしょうが東京電力や原子力安全保安院の記者会見の「わかり難さ」と対照的でした。後藤さんは、この集会のすぐ後に初めてテレビ出演の依頼があり、テレビ朝日の「ワイドスクランブル」(11:25~)にご出演されて、その後もテレビでのご発言も続けていらっしゃいます。

【原子力資料情報室のこと】 1975年に設立された原子力技術者であった高木仁三郎氏が代表を務めたNPOで脱原発を実現する市民の情報センターです。長年、日本の原子力政策に対して代替案を提案してきた団体です。もう亡くなられたのですが、元代表の高木仁三郎さんは1997年にもうひとつノーベル賞として有名な「ライトライブリフッド賞」を受賞された市民科学者という立場を貫かれた方でした。 http://cnic.jp/

【福島第一原発で何が起きているのか】 僕は原発の専門家でもなんでもないので、後藤さんがどんな話をされたのかをここで再現することはできません。でも、印象に残ったことがあったのでそのことをお伝えしたいと思いました。ちなみに当日のプレゼン資料は以下のリンクから見ることができます。 http://cnic.jp/files/earthquake20110311/20110317innai.pdf

後藤さんは、通常、原発は設計段階ではあらゆる危険性を考えたうえで設計するものだが、今回は地震に津波が重なったために「多重故障」が発生したといいます。そのため、安全システムがすべて作動しないという最も恐れていることが起きたというのです。テレビのニュースでも、今回の事故は地震の大きさや津波が同時に起きたことが「想定外」だったという言葉が繰り返されています。確かにめったに怒らない規模の巨大地震でしたし、津波も予想を上回るものだったかもしれません。でも素人考えですが、海岸線に設備を建設するなら、一定規模の地震が発生した時には相当の津波がセットとは考えないのでしょうか…?

『元東芝の技術者「津波全く想定せず」(読売新聞)』 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/dogai/278890.html

【有り得ないリスクは想定しない?】 後藤さんは、設計者としてあらゆるリスクを想定して、有り得ないような(今回のような)ことが起きたときのための対策を考えることが必要ではないかと提案したそうです。例えば、電源が断たれても、なんらかの形で機能する放射能計など…。でも、(それを実施すればかなりコストがかかることもあり)一笑に付されて終りだったそうです。それを引き下がらずに、もっと強く主張するべきだった…という自責の言葉がとても印象的でした。

言葉を変えて言えば、すでに設計の段階で最優先されるべき「安全性」を担保するための二重三重のバックアップ対応をコスト(削減)優先で怠ってきたということのようなのです。そのために、地震の後の福島原発では、格納容器の本来の目的は放射能を閉じ込めるのが仕事なのに「放っておくと(炉内の圧力が上がって)爆発の危険がある」ので『ベント』で危険な放射能を出さざるをえない状況になっている訳です。ちなみに、この「ベント」はその目的を自ら放棄することになるので「格納容器の自殺」と呼ばれているそうです。つまり、それだけあってはならない事態だということです。

そして、驚いたことに例えばヨーロッパでは今回何度も行われているこの「ベント」で格納容器内の圧力を下げるために炉内の水蒸気を緊急排出する場合にも、その際に大気中に放出される放射性物質のためのフィルターを設置するケースもあるそうです。さすがですよね。確かに、緊急事態でも多くの市民が被曝する可能性があるなら、それに対応する準備が本来はあるべきだと思いました。

【想定される最悪のシナリオ】 後藤さんは、今後の予想される危険については以下のように説明されました。

①このまま冷却用の水が注入できずに、原子炉の冷却ができないと炉心が溶融して原子炉の底に溶融物が落ちる(メルトダウン)。さらに冷却ができないと、(放射性物質を閉じ込めている)原子炉圧力容器の底が抜ける(※スリーマイルではこの手前で反応が止まった)。底まで落ちた溶融物はコンクリートと反応して、大量の水素ガスなどを出す。そして、この段階で格納容器が破損するので外部に大量の放射性物質が放出される。

②冷却に失敗すると、事故の進展に伴って水素爆発や水蒸気爆発が起きる可能性がある(摂氏1400度で溶融を始める燃料の被覆管に使われているジルカロイ合金に水が触れると激しい爆発が起きる)。あるいは(制御棒で反応を止めていた)再臨界が起こりうる。再臨界とは床に落ちた溶融物のなかに核分裂を進める燃料が残っていて勝手に臨界を始めること(原子炉にホウ酸を撒布していのは再臨界を防ぐため)。十分に冷却できなければ(原子炉建屋の上部プールに大量に貯蔵されている=格納容器の外にある)使用済み燃料が溶融して大量の放射能が放出されるなど。

③水素、水蒸気爆発など大規模な爆発現象が発生すれば、放射性物質が大量に大気中飛び出し、チェルノブイリ原発事故と同じような事態を招く可能性がある。爆発を起こさない場合にも、徐々に放射性物質が外部に出続ける。

この③が政府やマスコミが言っていることと一番違う点だと思います。もちろん、これがすぐにも起きると言っているのではなく、最悪の事態になった場合にはその可能性があると設計技術者として言っているのです。でも、その心配がまったくないと言われている場合と、小さくても最悪のシナリオが起きる可能性があると言われた場合では、今後の自分や家族の動き方を考えるときには、大きく対応が変わってくるのはないでしょうか?

【政府・マスコミと海外政府・NGOの情報格差】 それにしても、今回の原発事故でもどかしく感じるのは政府(とマスコミ)の情報公開に対する姿勢です。この時代、環境NGOなどがツイッターやブログ、UTSREAMなどを使って独自の情報収集や(放射性物質の放射量の)検査結果などを公表しています。また世界中のメディアの論調も即座に翻訳されてマスコミによりも先にメルマガなどで紹介されています。連日の記者会見で頑張っている枝野官房長官には申し訳ないですが、(海外メディアや外国政府から)情報を隠していると言われても仕方がないぐらい、発表される情報の詳しさや精度などが足りないというか低いのがもどかしいと感じます。

結局(例えば東京での被曝の可能性や内部被曝の危険性など)本当のところはどうなのかを知りたければ、自分でネットで環境NGOや海外の情報を調べなければ納得できる情報が得られないからです。このことが、多くの市民の不安につながっているのではないかと思います。メディアなどで非難されている都市部での「買い溜め」にしても、政府や東電から十分な情報が提供されないから、万が一の場合を想定して多くの人がとにかく家族の食料確保に走ることを非難できないような気が個人的にはしています。もちろん、ヤバすぎる情報を出すことでパニックが起きることを恐れているとか、それを防ごうという政府の考え方はわからないではないですが、僕は多くの人たちは客観的な情報を出せば、ちゃんと自分でどう動くべきかを判断できると思います。

【日本政府の対応力を信じたい…】 このことは、もし政府や東京電力が情報を隠していないとしたら、事故現場の詳細を把握できていない、もしくは客観的に事故の全容を分析できていないのではないかという心配に変わります。これまで政府が「4」だと言っていた今回の事故の(国際的な)レベル評価が今日になってようやく「5」に引き上げられたことが一例です。日本の環境NGOや(テレビに出ていない)専門家の間では、かなり前から今回の事故のレベルはチェルノブイリ一歩手前の「6.5」だと評価されていました。だからこそ、彼らは30km圏内ではなく、アメリカ大使館などの外国の政府機関のように80km圏内からの避難勧告や、特に子供たちのためのヨウ素剤の配布を提言しているのです(例:環境エネルギー政策研究所の飯田哲也さん)。 http://www.isep.or.jp/

政府や東電が、原発事故の情報を隠しているのか、それとも事故現場の全容や詳細を把握していないのか。どちらであっても世界中が困る話です…。以下、原子力資料情報室からの今日の時点での政府への要望事項です。 http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=1034

報告がとても長くなってしまいました。いろいろ勝手なことを書きましたが、身の危険を省みず、福島原発の冷却作業に現場で従事されている東京電力やその関係会社の皆さん、自衛隊や消防庁の皆さんに心からの敬意と感謝を評したいと思います。また、震災に加えて被曝の脅威にさられている福島の被災者の皆さんには、なんと言ったらいいかわかりませんが、少しでも早く状況が改善されることをお祈りしています。最後に、今回の地震関係(特に福島原発)の情報を拙ツイッターでリツイートしています。よろしければご覧下さい。 http://twilog.org/MasayaKoriyama

追伸:以下、環境エネルギー政策研究所代表の飯田哲也さんが発表された『「最悪シナリオ」はどこまで最悪か-楽観はできないがチェルノブイリ級の破滅的事象はない見込み-』(3月20日時点)です。ご参考まで。 http://www.isep.or.jp/images/press/script110320.pdf

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