2011/04/09

統一地方選挙の争点は「原発・エネルギー政策」!

【原発事故が遠くなる東京の日常…】 東京では桜も咲いて気温も上がり、ここ数日は春らしい陽気が続いています。震災直後には、ベランダに薄っすら積もったスギ花粉が福島から飛んできた放射物質ではないかと大騒ぎになったり、水道水に規制値以上のヨウ素が検出されてペットボトルが店頭から一斉に消えたりしたことがだいぶ前のことようにも感じます。スーパーの品揃えも平常時に近くなってきて、テレビや新聞の報道を見なければ、何事もない平和な日々だと思ってしてしまいます…。

そしてはっと気がつけば、もう2日後に統一地方選挙のトップを切って東京都知事選挙の投票日がやってきます。テレビでの震災や原発に関する特別番組は、さすがにだいぶ減ってはきましたが、ニュースの中ではやはりその内容が大半を占めていて、都知事選挙のニュースはほとんど見ないので本当に選挙をやっているのかと疑ってしまうぐらいです。

このことは、多くの有権者が投票所に足を運ばす、投票率が大幅に下がることを予想させます。そして低投票率は、特定の「組織票」を持つ候補者が有利になることを意味します。報道によれば、実質的に自民・公明両党の支援を受ける現職の石原慎太郎氏が優勢で、それを元宮崎県知事の東国原英夫氏、そして都議会民主党が支援する元ワタミ会長の渡辺美樹氏、共産党推薦の小池晃氏と続いています。ただし、まだ3~5割が投票態度を明らかにしていないので、まだまだ情勢は変わる可能性があります。 http://www.asahi.com/politics/update/0403/TKY201104030210.html


【統一選の争点は「原発・エネルギー政策」!】 ちなみに僕は「脱原発」と「自然エネルギーへの戦略的転」を明確に打ち出している小池晃氏に不在者投票してきました。都知事選ですから、お母さんや子ども、高齢者や非正規雇用者(派遣労働者)に優しい社会保障政策も重要だと思うからです。
http://daily.magazine9.jp/plus/2011/04/post-59.html

個人的には、この都知事選挙を皮切りに全国で行われる地方統一選挙は大げさではなく、今回の未曾有の震災による福島原発の事故を受けて、日本の新しい針路を決める歴史的で決定的に重要な選挙だと思っています。 この選挙で、安全性よりコストを優先したことでこれだけ甚大な人的・環境的な汚染と被害を垂れ流している東京電力による福島原発事故が象徴する「いのち(環境)を優先する政治か、それとも財界の利益を優先する政治か」が問われないで、いったいつ有権者は「脱原発=いのち優先」の意思を表明できるというのでしょうか…。

全国の原発を段階的に廃炉にして行く政策を掲げている政治家を僕は選びたいと思います。   その意味でも、今回の重要な争点は「原発・エネルギー政策」だと思います。今回の原発事故で、経済産業省(通産省)や自民党など政府、東京電力などの電力会社、東芝や日立など原発企業、マスコミや東京大学の教授たちがこの40年間近く言い続けてきた「原発がクリーンで安価なエネルギー」だという戯言は、もう今となってはたちの悪い冗談としか思えない「真っ赤な嘘」だったことが最悪の形で証明されてしまいました。そのことを鵜呑みにしてきた訳ではありませんが、まさかここまでの無責任体制でこんなにリスクの高い事業を回していたとは思い至らなかった自分の不明を深く反省しています…。

■「福島・非難すべき沈黙(3月26日仏ル・モンド紙)」 http://www.francemedianews.com/article-70295007.html


【原子力発電について候補者の考えを知ろう!】 ミュージシャンの坂本龍一さん、大貫妙子さんや作家の村上龍さん、映画監督の鎌中ひとみさんたち100人を超える賛同人が「候補者のエネルギー政策を知りたい有権者の会」を立ち上げました。そして、今度の統一地方選挙の知事・政令市長選候補の方々に質問状を送り、その結果をウェブで発表しています。候補者は詳しく回答していますが、わざと「どっちつかず」に書いてある官僚答弁のような回答もあるし、これまでの経歴を見ればその場しのぎの嘘をついている(あとで政策がコロッと変わる)場合もあると思うので、注意深く候補者の真意を読みとって下さい。 http://energy-policy.net/


【危険で環境を汚染するだけでなく割高な…】 原発は地球を放射能汚染の危機にさらし、先祖伝来の豊かな土地から人々を追い出して、農林漁業を壊滅させ、子孫には高レベル放射性廃棄物の毒物というツケを残すことが私たちの目の前で日々証明されています。原発から排出される「人類が作り出した最強の毒物」といわれているプルトニウムの半減期は2万4千年です。その処理コストや管理コストはいったい誰が払うのでしょうか? 使えなくなった原発を廃炉にするにも膨大なコストがかかります。


いったん事故が発生した場合には今回のような(まだ全部でいくらかかるかわからないほどの)巨額のコストと、管理不能ではないかと思われる非常に高いリスクが生じることを、私たちはいま目の前で計り知れない不安と痛みを伴いながら確認しているのです。残念ですが、原発は経済原則から考えても、段階的に廃炉にするべきだと思います…。 今回の原発事故が、世界に冠たる高品質の保証であった「メイド・イン・ジャパン」という国家ブランドを大きく失墜させたことを含めて、この天文学的な損害が誰のどういう責任で生じたのかを徹底的に究明して、その責任を間違いなく取らせることが必要だと思います。 ■外国人記者が見た「この国のメンタリティ-優しすぎる日本人へ-」 (4月6日「週刊現代」)http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2372


【世界の流れは安価で安全な自然エネルギー!】 しかも、国際的なネットワークを持ち、最新の海外状況に通じている環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也さんによれば、海外では風力や太陽光発電など再生可能エネルギーによる発電コストが、すでに原発のコストを下回ったことが知られているそうです。そして、欧米では新設の発電施設の60%はもう自然エネルギーになっているといいます。 世界をリードしてきた日本の技術をもってさえ安全性をコントロールできないような中央集権的で巨大な発電施設ではなく、地域分散型の自然エネルギー(スマート・グリッド)が世界のトレンドになっているのです。こんなに地震と津波のリスクの高い国に、あまりにも危険な原発は適していない発電施設だと思いませんか?


■飯田哲也×小林武史 緊急会議「エネルギーの世代交代」 http://www.eco-reso.jp/feature/love_checkenergy/20110407_5007.php


【ドイツでは緑の党の総理大臣が誕生するかも?】 ドイツでは、今回の福島原発の衝撃的な事故にショックを受けた25万人もの普通の人たちが、「脱原発」の意思を示すデモ行進に参加したそうです。そして、3月27日行われた2つのドイツ州議会選で、東日本大震災による福島原発の事故が「原発論争」を呼び覚まして、90年代から一貫して脱原発を訴えてきた「90年連合・緑の党」が大躍進しました。その結果、メルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)が58年間も州政権を担ってきた南西部バーデン・ビュルテンベルク州で、独政治史上初の緑の党出身の州首相が誕生しました!このことから、ドイツは再び脱原発にカジを切る可能性が出てきたようです。  


また、福島原発の事故を受けて、メルケル首相は3月14日、原発の稼働年数の延長計画を3カ月間凍結。15日に1980年以前に運転を開始した原発7基を一時停止しました。それにしても、この歴史的な政治的転換の原因を作った日本の原発は、活断層の上にある浜岡原発をはじめ、これだけ大きな地震が群発していて本当に危険なのに、なぜとにかく一時的にでも止まらないのでしょうか?(3月29日産経ニュース) http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/europe/499706/


ドイツの緑の党は、反原発(反核兵器)のNGOや環境NGOなどが大同団結して政党らしくない政党(Greens:緑の人々)として作られました。それが社民党(SPD)と連立政権を8年間も担って「原発の段階的な廃止」や「自然エネルギー政策」の推進、有機農業の目標20%(日本は0.2%)など「今後の日本が目指すべき環境政策」を打ち出して、社会を持続可能(サスティナブル)な方向に大きく進歩させてきました。緑の党・日本「みどりの未来」 http://www.greens.gr.jp/


【あなたはどんな未来に投票しますか?】 今回の統一地方選挙では、子どもたちの未来を「暗黒の未来」にしない、「いのちとみどり(人の健康と自然環境)」を大事にする「みどりの未来」を創造する議員を選びたいと僕は思います。この統一地方選挙の争点は「いのちを守るみどりの町づくり」ではないかと思います。今後、数十年も続く土壌汚染、広範囲の水質汚染と大気を舞う放射性物質で子どもの生命を脅かす魔の原発事業による補助金に頼るのではなく、地産地消の分散型自然エネルギー産業による雇用の創出と有機農業・畜産・水産・林業、伝統食、地域文化とエコツーリズム等による第六次産業化による町おこしを!


【参考資料】 「3.11 後の原子力・エネルギー政策の方向性-二度と悲劇を繰り返さないための6戦略ー」環境エネルギー政策研究所所長・飯田哲也氏 http://www.isep.or.jp/images/press/ISEP_StrategyNo2.pdf


郡山昌也(こおりやままさや) http://organic.no-blog.jp/ http://twitter.com/#!/MasayaKoriyama -

2011/04/08

東京の浄水場でもヨウ素を検出…

とうとう東京の浄水場でも(一歳未満の)幼児には飲ませない方がいい(規制値の2倍)というレベル(210Bq:ベクレル)の放射性ヨウ素(131)が検出されてしまいましたね…。(朝日新聞)http://www.asahi.com/national/update/0323/TKY201103230282.html また、今日までに福島県産のホウレン草や牛乳だけでなく茨城、栃木、群馬の各県産の多くの農産物が出荷停止になってしまい、摂取制限もかけられてしまいました…。野菜の規制値は2000ベクレル/kgです。(読売新聞) http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/nation/20110323-567-OYT1T00096.html NHKニュース21では、福島第一号原発から40kmの飯館村の土壌を検査した結果、16万3000ベクレルのセシウムが検出されたと報じました。通常の1600倍という高濃度の汚染です。セシウムの半減期は30年なので、100年経っても消えないそうです。作物に1%しか吸収しなくても1万6000ベクレルの残留で出荷できません。というより、非常に残念ながらその土地ではもう2度と農業はできません…。ヨウ素も117万ベクレル検出されました。これはチェルノブイリ原発周辺の汚染度に匹敵するそうです(朝日新聞:3月24日)。この区域にいらっしゃる方々の健康状態もとても心配です。 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110323/t10014858671000.html 福島第1原発の排水口付近では、21日に採取した海水から、法令が定める濃度限度の126.7倍の放射性ヨウ素を検出しました。海水が汚染されたことで、生態濃縮(食物連鎖)による海産物の汚染に繋がる可能性があります。ニュースでは、せっかく手塩にかけて育てたホウレン草などの野菜を畑で潰さなくてはならない農家の方のコメントや「自分たちはいつも通りに育てていたのに…」と福島の酪農家の方が牛乳の原乳を捨てているシーンなどが報道されていました。このようなニュースを聞いていると、消費者としてはもちろんすごく不安ですが、農林水産業を生業とされている現地の農家・畜産農家・漁師さんたちの生活への不安もとても大きいのではないかと思います。 【飲料水の基準値は世界的には10ベクレル?】 話が横にそれてしまいましたが、今夜のNHKのニュースでは乳児が水道水を飲むことに関しても、専門家が(規制値の2倍強の210ベクレル程度では)「ただちに健康には影響ない」と繰り返していました。日本では、食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する規制値は「100ベクレル(Bq/L)」となっているそうです。 厚労省によると、世界的には飲料水の放射性物質の基準値はWHOの飲料水の品質ガイドラインで「10ベクレル」だそうです。食品衛生法には放射性物質の残留値の基準がなかったので、原子力安全委員会が1980年につくった防災指針に基づいて厚労省が3月17日に非常時の暫定基準「300ベクレル」を制定しました。(厚生労働省医薬食品局)http://bit.ly/foBuwU そして乳幼児向けの基準が「100ベクレル」として定められたそうです。つまり平時にはWHOの基準値「10ベクレル」としていたものを「非常時」だからと10倍に引き上げてあるということです。WHOの基準値については、以下の資料をご参照下さい。(WHO飲料水水質ガイドライン/一覧表:P203-P204)「ヨウ素 I-131:10ベクレル/セシウムCs-137:10ベクレル」 http://whqlibdoc.who.int/publications/2004/9241546387_jpn.pdf その意味では、粉ミルクを作るのに水道水を使わなければならないお母さんの心配は大変なものだろうと思います。東京都では、乳幼児のいる家庭には明日にもペットボトルの水を配るそうです。これは迅速ないい対応だと思いますが、この状況が長く続けばどうなるのでしょうか…。 また大人としても、この規制値についてはどう考えればいいのか悩みます。非常時の基準の300ベクレル内ではあるけれども、WHOの基準値の20倍以上ということです。とはいえ、料理やご飯を炊くにも非常時用のインスタントラーメンを作るのにさえ水を使わずにはできません。他に手がないのでとりあえずは料理には水道水を使うしかありませんが、いつまでこの状況が続くのか知りたいと思っています。ちなみにヨウ素の半減期は8日間のようです(「放射能Q&A」長崎大学医学部)。 http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/interna_heal_j/a3.html でも被災地では、まだとても多くの方々が大変に厳しい、不自由な避難所生活を強いられていると思います。福島では、東京(首都圏)のための電気を危険な福島原発で作った結果、今回の原発事故で被災されて今も本当に大変な状況にあると思います。そのことを考えると、安全な東京にいる自分がこれぐらいで騒いではいけないとも感じますが…。 【放射性物質に関する情報など】 以下は、僕が参考にしている放射性物質に関する情報元です。皆さんもすでに情報をお持ちだとは思いますが、少しでも何かの参考になればと思いご紹介します。もちろん、あくまで参考情報ですので真偽についてのご判断はご自身でお願いします。 ■「放射能への対処法」(鎌中ひとみ監督推薦) http://homepage3.nifty.com/ksueda/youso.html これは、チェルノブイリ原発事故(1986年)の時から活動を続けている団体の「原発110番」というサイトからです。「WHOは放射性ヨウ素を10Bq/Kg(L)を安全基準にしているということに注目。日本の値は10倍になってしまいます(一覧表の中段)。とは鎌中さんのコメント 」 ■「放射線による内部被ばくについて」(津田敏秀・岡山大教授) http://smc-japan.sakura.ne.jp/?p=1310 これは科学者たちが、今回の原発事故に関する情報をわかり易く紹介するために立ち上げたサイト(サイエンス・メディア・センター)です。特に、この間の新聞やテレビで「レントゲンによる検査での被曝量と比較して安全だ」という話をしていますが、そのことの可否についても論じています。 ■「放射能分野の基礎知識」(放射線医学総合研究所) http://www.nirs.go.jp/information/info.php?i3 原子力発電所に関して定められた一般の方の一年間の線量限度は1ミリシーベルト/年です。自然界から被ばくしている線量は、1年間で2.4ミリシーベルトです。世界の高線量地域では10ミリシーベルトという場所もあります。 ■「レントゲンと原発放射線は違います」(環境市民) http://www.kankyoshimin.org/modules/blog/index.php?content_id=82 これは京都の環境市民団体のサイトです。「レントゲンやCTスキャンは、機器の整った室内で行われるのに対し、今回の事故で放出された放射性物質は空気中を舞っているわけですから、服や肌に付着する外部被曝(表面汚染)と口、鼻、傷口から吸収する内部被曝がおきます。」 ■原子力資料情報室(CNIC) http://www.cnic.jp/ 原子力技術者であった高木仁三郎氏が代表を務めたNPOで脱原発を実現する市民の情報センター。元代表の高木仁三郎さんは、1997年にもうひとつノーベル賞として有名な「ライトライブリフッド賞」を受賞。市民科学者という立場を貫かれた方でした。 【まだ楽観はできないが…】 最後に、先日の「福島原発の現状って本当はどうなの?」という日記で、東芝の元原子炉格納容器設計者、後藤政志さんの講演内容を一部ご紹介しました。その中では、「最悪のシナリオ(チェルノブイリ級の爆発事故)の可能性もない訳ではない」という意見をご紹介しました。(その後も、後藤さんは海外のメディア(BBC)を含めて各局の番組にかなり出演をさているようです) http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1691948451&owner_id=13214354 つきましては、信頼している元原子力技術者で、現在は自然エネルギー政策の第一人者である「環境エネルギー政策研究所」代表の飯田哲也さんが、3月20日(日)現時点で福島原発の状況について分析を発表されましたのでご紹介します。結論は、もちろんまだまだ余談を許さない状態ながら、本当に最悪のケースは避けられる可能性が見えてきたという内容です。ご参考まで。http://www.isep.or.jp/ 『「最悪シナリオ」はどこまで最悪か-楽観はできないがチェルノブイリ級の破滅的事象はない見込み-』http://www.isep.or.jp/images/press/script110320.pdf 今朝の地震もけっこう揺れましたよね。東京でもまだまだ非常事態が続きますが、子供たちのためにも「焦らず・慌てず・諦めず」の精神で乗り切りたいですね。 Masayan(こおりやままさや) http://twitter.com/MasayaKoriyama 追伸:この記事は拙「オーガニックブログ」にもあげました。 http://organic.no-blog.jp/weblog/2011/03/post_cd08.html

福島原発の現状って本当はどうなの?

3月17日(木)に参議院議員会館で開催された緊急院内集会「福島原発の現状をどう見るか」に参加してきました。11日(金)に発生した「東北沖地震(東日本大震災)」の影響を受けて起きた、福島原発の現状と今後想定される問題点について(基本的には議員さんたちを対象にした)専門家の話しを直接聞くことができる貴重な機会でした。集会は直前にネットで告知されただけでしたが、会議室が満杯で立ち見が多数でるほどの盛況ぶりでした。主催した原子力資料情報室のHPで、報告会のUSTREAMを録画で見ることができます。 http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=1025

【設計技術者・後藤政志さん】 話をされたのは後藤政志さん。東芝の元原子炉格納容器設計者で、工学博士でもあります。後藤さんは、原発の事故発生後から、主に今回の院内集会を主催した原子力資料情報室のコメンテーターとして技術者の立場から小さな集会などで発言を続けてこられました。実際に、原発の「格納容器」や今回の爆発で吹き飛んでいる建屋などの設計に当たられた知識とご経験から、政府やマスコミが伝えない今回の原発事故のリスクについても、技術者の良心を賭けて発言されています。

これまでに、USTREAMなどで後藤さんのコメントを聞いて、その発言に真実を感じるというか、ネガティブな情報も含めて最悪の事態が起きる可能性をちゃんと伝えてくれる姿勢に惹かれていました。それは、立場もあるのでしょうが東京電力や原子力安全保安院の記者会見の「わかり難さ」と対照的でした。後藤さんは、この集会のすぐ後に初めてテレビ出演の依頼があり、テレビ朝日の「ワイドスクランブル」(11:25~)にご出演されて、その後もテレビでのご発言も続けていらっしゃいます。

【原子力資料情報室のこと】 1975年に設立された原子力技術者であった高木仁三郎氏が代表を務めたNPOで脱原発を実現する市民の情報センターです。長年、日本の原子力政策に対して代替案を提案してきた団体です。もう亡くなられたのですが、元代表の高木仁三郎さんは1997年にもうひとつノーベル賞として有名な「ライトライブリフッド賞」を受賞された市民科学者という立場を貫かれた方でした。 http://cnic.jp/

【福島第一原発で何が起きているのか】 僕は原発の専門家でもなんでもないので、後藤さんがどんな話をされたのかをここで再現することはできません。でも、印象に残ったことがあったのでそのことをお伝えしたいと思いました。ちなみに当日のプレゼン資料は以下のリンクから見ることができます。 http://cnic.jp/files/earthquake20110311/20110317innai.pdf

後藤さんは、通常、原発は設計段階ではあらゆる危険性を考えたうえで設計するものだが、今回は地震に津波が重なったために「多重故障」が発生したといいます。そのため、安全システムがすべて作動しないという最も恐れていることが起きたというのです。テレビのニュースでも、今回の事故は地震の大きさや津波が同時に起きたことが「想定外」だったという言葉が繰り返されています。確かにめったに怒らない規模の巨大地震でしたし、津波も予想を上回るものだったかもしれません。でも素人考えですが、海岸線に設備を建設するなら、一定規模の地震が発生した時には相当の津波がセットとは考えないのでしょうか…?

『元東芝の技術者「津波全く想定せず」(読売新聞)』 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/dogai/278890.html

【有り得ないリスクは想定しない?】 後藤さんは、設計者としてあらゆるリスクを想定して、有り得ないような(今回のような)ことが起きたときのための対策を考えることが必要ではないかと提案したそうです。例えば、電源が断たれても、なんらかの形で機能する放射能計など…。でも、(それを実施すればかなりコストがかかることもあり)一笑に付されて終りだったそうです。それを引き下がらずに、もっと強く主張するべきだった…という自責の言葉がとても印象的でした。

言葉を変えて言えば、すでに設計の段階で最優先されるべき「安全性」を担保するための二重三重のバックアップ対応をコスト(削減)優先で怠ってきたということのようなのです。そのために、地震の後の福島原発では、格納容器の本来の目的は放射能を閉じ込めるのが仕事なのに「放っておくと(炉内の圧力が上がって)爆発の危険がある」ので『ベント』で危険な放射能を出さざるをえない状況になっている訳です。ちなみに、この「ベント」はその目的を自ら放棄することになるので「格納容器の自殺」と呼ばれているそうです。つまり、それだけあってはならない事態だということです。

そして、驚いたことに例えばヨーロッパでは今回何度も行われているこの「ベント」で格納容器内の圧力を下げるために炉内の水蒸気を緊急排出する場合にも、その際に大気中に放出される放射性物質のためのフィルターを設置するケースもあるそうです。さすがですよね。確かに、緊急事態でも多くの市民が被曝する可能性があるなら、それに対応する準備が本来はあるべきだと思いました。

【想定される最悪のシナリオ】 後藤さんは、今後の予想される危険については以下のように説明されました。

①このまま冷却用の水が注入できずに、原子炉の冷却ができないと炉心が溶融して原子炉の底に溶融物が落ちる(メルトダウン)。さらに冷却ができないと、(放射性物質を閉じ込めている)原子炉圧力容器の底が抜ける(※スリーマイルではこの手前で反応が止まった)。底まで落ちた溶融物はコンクリートと反応して、大量の水素ガスなどを出す。そして、この段階で格納容器が破損するので外部に大量の放射性物質が放出される。

②冷却に失敗すると、事故の進展に伴って水素爆発や水蒸気爆発が起きる可能性がある(摂氏1400度で溶融を始める燃料の被覆管に使われているジルカロイ合金に水が触れると激しい爆発が起きる)。あるいは(制御棒で反応を止めていた)再臨界が起こりうる。再臨界とは床に落ちた溶融物のなかに核分裂を進める燃料が残っていて勝手に臨界を始めること(原子炉にホウ酸を撒布していのは再臨界を防ぐため)。十分に冷却できなければ(原子炉建屋の上部プールに大量に貯蔵されている=格納容器の外にある)使用済み燃料が溶融して大量の放射能が放出されるなど。

③水素、水蒸気爆発など大規模な爆発現象が発生すれば、放射性物質が大量に大気中飛び出し、チェルノブイリ原発事故と同じような事態を招く可能性がある。爆発を起こさない場合にも、徐々に放射性物質が外部に出続ける。

この③が政府やマスコミが言っていることと一番違う点だと思います。もちろん、これがすぐにも起きると言っているのではなく、最悪の事態になった場合にはその可能性があると設計技術者として言っているのです。でも、その心配がまったくないと言われている場合と、小さくても最悪のシナリオが起きる可能性があると言われた場合では、今後の自分や家族の動き方を考えるときには、大きく対応が変わってくるのはないでしょうか?

【政府・マスコミと海外政府・NGOの情報格差】 それにしても、今回の原発事故でもどかしく感じるのは政府(とマスコミ)の情報公開に対する姿勢です。この時代、環境NGOなどがツイッターやブログ、UTSREAMなどを使って独自の情報収集や(放射性物質の放射量の)検査結果などを公表しています。また世界中のメディアの論調も即座に翻訳されてマスコミによりも先にメルマガなどで紹介されています。連日の記者会見で頑張っている枝野官房長官には申し訳ないですが、(海外メディアや外国政府から)情報を隠していると言われても仕方がないぐらい、発表される情報の詳しさや精度などが足りないというか低いのがもどかしいと感じます。

結局(例えば東京での被曝の可能性や内部被曝の危険性など)本当のところはどうなのかを知りたければ、自分でネットで環境NGOや海外の情報を調べなければ納得できる情報が得られないからです。このことが、多くの市民の不安につながっているのではないかと思います。メディアなどで非難されている都市部での「買い溜め」にしても、政府や東電から十分な情報が提供されないから、万が一の場合を想定して多くの人がとにかく家族の食料確保に走ることを非難できないような気が個人的にはしています。もちろん、ヤバすぎる情報を出すことでパニックが起きることを恐れているとか、それを防ごうという政府の考え方はわからないではないですが、僕は多くの人たちは客観的な情報を出せば、ちゃんと自分でどう動くべきかを判断できると思います。

【日本政府の対応力を信じたい…】 このことは、もし政府や東京電力が情報を隠していないとしたら、事故現場の詳細を把握できていない、もしくは客観的に事故の全容を分析できていないのではないかという心配に変わります。これまで政府が「4」だと言っていた今回の事故の(国際的な)レベル評価が今日になってようやく「5」に引き上げられたことが一例です。日本の環境NGOや(テレビに出ていない)専門家の間では、かなり前から今回の事故のレベルはチェルノブイリ一歩手前の「6.5」だと評価されていました。だからこそ、彼らは30km圏内ではなく、アメリカ大使館などの外国の政府機関のように80km圏内からの避難勧告や、特に子供たちのためのヨウ素剤の配布を提言しているのです(例:環境エネルギー政策研究所の飯田哲也さん)。 http://www.isep.or.jp/

政府や東電が、原発事故の情報を隠しているのか、それとも事故現場の全容や詳細を把握していないのか。どちらであっても世界中が困る話です…。以下、原子力資料情報室からの今日の時点での政府への要望事項です。 http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=1034

報告がとても長くなってしまいました。いろいろ勝手なことを書きましたが、身の危険を省みず、福島原発の冷却作業に現場で従事されている東京電力やその関係会社の皆さん、自衛隊や消防庁の皆さんに心からの敬意と感謝を評したいと思います。また、震災に加えて被曝の脅威にさられている福島の被災者の皆さんには、なんと言ったらいいかわかりませんが、少しでも早く状況が改善されることをお祈りしています。最後に、今回の地震関係(特に福島原発)の情報を拙ツイッターでリツイートしています。よろしければご覧下さい。 http://twilog.org/MasayaKoriyama

追伸:以下、環境エネルギー政策研究所代表の飯田哲也さんが発表された『「最悪シナリオ」はどこまで最悪か-楽観はできないがチェルノブイリ級の破滅的事象はない見込み-』(3月20日時点)です。ご参考まで。 http://www.isep.or.jp/images/press/script110320.pdf